I am the vine; you are the branches

Shota Maehara's Blog

人はパンだけで生きるものではない。神の口から出る一つ一つの言葉で生きる

Posted by Shota Maehara : 10月 28, 2010

旭川に五十嵐広三という市長がいた。氏は昭和三十八年から十一年市長を務め、歩行者天国を日本で初めて実施した市長として有名である。むろん、その他ユニークな市政を次々に遂行した人物でもある。沖縄返還の頃のこと、アメリカのジョンソン大使が旭川を訪れた。歓迎会の席上で、ジョンソン大使が言った。

「沖縄では、みんな返還を喜んでいますが、主食が今までの二倍の値段になるのですがね」まわりに追従の笑いが起きた。が、五十嵐市長は笑わなかった。彼はこの歓迎会の主催者である。黙ってうなずいていれば、それでよいかもしれなかった。が、彼はこの時、
(一言なるべからず)
と思ったという。そして言った。
「しかし、人間にはパンよりも大事なものがありますからね」

アメリカの大使ジョンソンを相手に、氏ははっきりと言った。その日、歓迎会を終えたあと、彼の家にジョンソン大使からウィスキーが届けられた。そしてそれには、ジョンソン氏の言葉を書いたカードが添えられていた。
「本日は実に愉快でありました」

さすがジョンソンは一流の大使である。
「人間にはパンよりも大事なものがあります」
と言い切った五十嵐氏の率直さと識見に、大使は尊敬の念を抱いたのであろう。

私はこの話を聞いた時、深い感動を覚えた。政治は、教育問題をはじめ多くの分野に亘る仕事であるが、主としてパンの問題を扱う仕事と言える。そうした政治の世界に身を置きながら、「人間にはパンよりも大事なものがある」と明言した彼の人間観は、実に讃嘆に値する。本当の政治というものは、この人間観の上に立ってなされるべきものなのだ。私たちが人間として生きるということは、パン以上に大事な人間の自由、人権があることを知ることなのだ。もし、この人間観が私たちの中に確立しているならば、金で大切な一票を売ったり、心にもない人事をしたり、不正に入学させたりすることなどは、決してあり得ないであろう。

―三浦綾子『聖書に見る人間の罪』

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