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Shota Maehara's Blog

イヴァン・イリイチの思想

Posted by Shota Maehara : 8月 23, 2009

イリイチ本来、「非対称的なものや関係」(ジェンダー、差異、他者性、多様性など)を押しつぶし、システムや合理性によってそれらを画一化してしまう「公正」や「基準」への批判こそ、イリイチの思想の眼目である。

確かにイリイチの思想は一見すると単なる共同体主義に堕する恐れがある。しかし、イリイチ思想の現実批判の鋭さはキリスト教的な背景から由来している。彼は制度化した西欧文化の根底にあるキリスト教の伝統を「最善の堕落は最悪であるCorruptio optimi quae est pessima」と批判しつつ、そのエッセンスを換骨奪胎する。すなわち、すべてが有用性という観点から眺められる社会において、今や人間の生活は過去・現在・未来という途切れない鎖の一部と化している。人間はいかにそうした鎖を断ち切って「今・ここ」を回復できるのか。そこで彼は社会に何の見返りを求めない領域、「無償の愛」(アガペー)を再導入すべきではないかと訴える。

私はこの主張を必ずしも全面的に支持するわけではない。しかし、キリスト教の教えに基づいて、かつて賀川豊彦や今釜ヶ崎で活動する神父の本田哲郎氏などの幾つかのボランティア・NGO・NPO団体を見ると、イリイチの思想から何らかの力を引き出し得るとしたら、脱学校論者や共同体主義者の側面ではなく、彼のキリスト教思想家としての側面なのではないかと思わずにはいられない。今後イリイチ研究はこの方向に光を当ててゆく必要があるのではないだろうか。

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