I am the vine; you are the branches

Shota Maehara's Blog

アウグスティヌスとともに―「神の国」の現代的意義

Posted by Shota Maehara : 1月 10, 2012

二〇一二年元旦に杉戸キリスト教会で新年礼拝に参加させていただいた。その説教の中で、野町牧師は、「傍観者にならずに、一歩を踏み出すことのできる一年へ」という言葉を述べられた。まさしく牧師様の口を通して、主がわれわれに語られた御言葉のような気がして、大変感銘を受けて、大切に胸にしまって帰った。

しかし、私はこの言葉を何度も反芻するうちに、一体自分には何ができるだろうかと考えて途方に暮れた。私はキリスト者としていまの時代において自分がなさねばならぬ務めは何かを真剣に考えてみた。そして、あたえられた答えは、紀元五世紀の偉大なキリスト教神学者アウグスティヌス(345-430)の中にあるのではないかということであった。

たび重なるゴート族のローマ帝国への侵入に恐怖した当時のローマの人びとは、この原因が自分たちが異教の神々を捨てて、キリスト教に帰依したからではないかという論をもって、キリスト教を非難した。それに対して、キリスト教正統派の立場から、そうした論にはなんの根拠もないことを証明し、擁護するために選ばれたのが当時最大の知識人であり、教父(=神学者)でもあったアウグスティヌスである。そして彼がそのために四〇年の長きにわたって書き綴ったのが『神の国』という書物である。

そこで彼はヨブのような義人でも、苦難に遭うことがあり得ること、そしてなにより、蛮族の侵入以前から、ローマの人心はすでに堕落しはじめていたことを指摘し、多くの事実を突き付ける。劇場の設置や、剣闘へのローマ市民の熱狂は、共同の福利に関心をもつべき共和国の精神を土台から腐らせていたと。

それに対して、アウグスティヌスは「神の国」を理念として対置する。私はいま「理念」としての「神の国」と言ったが、これを日常のことばや分析的知性(実証科学)の意味に解してはならない。ドイツ観念論の最高峰であるカントやヘーゲルの意味で私はこれを使っているのだ。つまり、通常理念や概念とは私たちが外のありふれた現実を抽象して頭の中で産み出したものと考えられているが、ヘーゲルは学問としての哲学が追求するものはそんなものではないと述べている。むしろ、私たち人間をこそ産み出したような理念を追求することが学問の本来の目的だというのだ(『論理学』)。

こうした「神の国」の理念は、単に超越的な存在ではなく、生きた言葉としてわれわれの社会を絶えず批判し、救いの道を指し示すものとしてあり続ける。ゲルマン民族の大移動によってローマ帝国が分裂していくなかで、自分たち人間が進むべき道のりは、単に物質的なものではなく、神の国の理念を実現する方向でなければならないと考えたアウグスティヌスの信仰の深さと強靭的な知性には圧倒させられざるを得ない。事実、ローマ帝国崩壊後、ゲルマン民族によって統治されたヨーロッパ諸国は彼を通して神が語られた信仰と思想の基盤の上に花開いたと言っても過言ではないだろう。

何よりも私が現代性を見いだすのは、彼がパウロの信仰義認説に着目することで、我らの原罪をとりのぞくのは人間的な努力によるのではなく、ただ神の恩寵(恵み)によるのであるという考えを再導入したことである。なぜなら、まずアウシュビッツ以後、人間の理性による共同の努力によって善き社会が建設されていくのであるという近代のヒューマニズム幻想を批判することができるからである。そして、次に、それでもニヒリズムに陥ることなしに、神の恩寵を待ち望んで、倫理的基盤の上に政治、経済、社会を再建するための指針が得られるからである。

かつて日本の夏目漱石は『それから』という作品の中で、明治以来日本は世界の一等国になるために西洋に追いつき追い越せとばかりに、物質的繁栄を求めてきた。しかし、この国の道徳的基盤の崩壊はそれに反比例して加速度的に進んでいると述べた。そしてその帰結をわれわれは日々目の当たりにしている。今必要になるのは人びとが共に生きていくために共同体を支える道義的基盤の再建なのである。性急な答えを急ぐ必要はない。私はアウグスティヌスとともにその方策を探り、同時代の人々へ訴えかけていきたいと願っている。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中