アドルノに関するノート1―非同一性について
Posted by Shota Maehara : 5月 2, 2010
なぜ人類は真に人間的な状態に歩みゆく代わりに、一種の新しい野蛮状態に落ちこんでゆくのか──。
●アドルノ(Theodor Wiesengrund Adorno 1903-1969)
ドイツの社会哲学者。フランクフルト学派の中心として音楽・社会学・美学など多彩な分野で活躍した。人間を解放へ導くはずの「啓蒙」が逆転して新しい野蛮を生み出す近代文明・管理社会の本質を厳しく批判した。主著に、『啓蒙の弁証法』(共著)『否定弁証法』『美の理論』『ミニマ・モラリア』など。
非同一的なもの(das Nichtidentische)
私たちは、自己形成の途上でさまざまな抑圧と克己を経るうちに、画一的な自分のあり方を身につける。その自分に「他」を同一化=統合させようとするとき、すべての悪の根源としての「暴力」が始動する。たとえば、異性愛以外を愛として認められない貧困な心は、同性愛者という「非同一的なもの」を怖れ、その抹殺を求める。ちょうどナチが、そうしたように。私たちは果たして「同一性」の抑圧から解放され、非同一的なもの=異質的なものを受容することができるのだろうか。―アドルノ―非同一性の哲学 (現代思想の冒険者たち) (単行本)より
※補足/弁証法とは否定を通じて最終的には肯定を回復する論理だとする伝統的な弁証法解釈に、アドルノは反対する。否定を媒介するにしろ、あらゆる具体的な現実を統一的な体系にまとめあげる全体化の論理は、歴史的現実をつかみそこなう恐れがあるからだ。真の弁証法は、統一原理の同一化できない「非同一的なもの」「異他的なもの」「概念以前のもの」にたえず開かれていなければならない。(須田朗『現代哲学がわかる』)
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