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Shota Maehara's Blog

文民統制への懐疑(ルサンチマン)

Posted by Shota Maehara : 11月 22, 2008

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二〇〇八年一〇月三一日に起こった元・自衛隊航空幕僚長、田母神俊雄氏が書いた歴史論文「日本は侵略国家であったのか」をめぐる一連の事件に関して、メディアでは連日大きく採り上げられた。事の発端は、アパグループが主催する「真の近現代史観」というテーマの懸賞論文に彼が応募し、最優秀賞となり、三百万円の賞金が贈られたことである。

これに対して、政府や朝日などのメディア側は、一九九五年の村山談話と呼ばれる政府見解と異なり、中国やアメリカとの戦争は日本の侵略ではなく、騙された被害者なのだと規定したことに猛反発した。他方で、同じ自衛隊関係者や賛同する右翼からは、個人の歴史観の表明は自由であり、それゆえその統制は言論の自由の侵害であると反論された。結局田母神氏は更迭され、定年退官することとなって決着した。

では、本当にこの事件は個人の史観や集団的自衛権の解釈の問題だったのだろうか。私は民主政治を研究するものとして、この問題の本質を剔抉しないわけにはいかない。

まず、この事件は日本が敗戦後平和憲法を掲げ、民主国家として再出発してきた歩みの光と影が凝縮して詰まっていることを認識しなければならない。日本では過去の反省に立って平和憲法の下で交戦権を放棄した。ただ同時に冷戦の影響でアメリカによって自衛隊が創設されたが、この軍隊組織の定義は憲法という立憲主義体制に位置づけられず、外に置かれ、宙に浮いたままになってしまった。したがって、近年自衛隊員は常に過酷な職務にもかかわらず、自らの存在を批判されるというジレンマに立たされてきたことは間違いない。

しかし、このことが今回の事件の核心ではない。我々が直面している危機はより本質的である。すなわち、民主社会における国民と軍隊の相反する地位という問題なのである。そもそも民主政治は、諸階層の平等を原理とし、そこで市民は商工業での経済活動を通して財産を増やし一生を安楽に送ることが幸福である。それゆえ民主政治のなかで一般市民は守るべき地位や財産を持つがゆえに、必然的に安定を好み、平和を希求する傾向がある。

それに対して、民主社会における職業軍人の地位とは如何なるものであろうか。普通エリートは大企業や官僚や政治家などの道を選ぶので、代々軍人であった者か、貧しい下層市民だけが軍隊に入る。自然、彼らの職業は公務員の中の最下級に位置づけられ、尊敬を受けなくなり、理解もされない。兵士自身、自らの地位に劣等感をもち、誇りを傷つけられて、閉じた集団を形成する。そんな中で尚彼らは士気を鼓舞するために熱心に愛国心を説く必要がある。いわば彼らは軍人としての誇りと弱者としての嫉妬が綯交ぜになった不安定な存在なのである。

かつて二〇〇八年五月二十四日に開かれた東大の五月祭で田母神氏が現職自衛官として初めて講演した際、その後開かれたレセプションで学生たちに向かって次のように述べたという―「これから日本の経済はもっと悪くなっていくだろう。ここにいる君たちは食うに困ることはない。しかし、エリートはそれだけではならない。真のエリートは、食うに困っている人をどうやったら食わせていけるかを考えなければならないのである」。ここに幹部自衛官としての矜持と、社会的弱者への共感、そして何よりも今時の東大生の利己主義への嫉視(ルサンチマン)を読みとることは決して難しいことではない。

もしこうした状況で、彼らが国を憂い、政治家への不信を表明し、自虐的な戦後の歴史観を変え、日本人としての誇りを取り戻そうと号令をかければどうなるか。私は多くの若者がこれに共鳴するであろうことを疑わない。かくして自衛官の不幸な地位からくる不満はさらに現代の格差貧困の犠牲者である若者のルサンチマンと合流し、社会に不穏な空気を醸成する。その意味で、まさに今回の事件は、彼らからのSOS信号として受け止めなければならないのである。

「民主政治は軍隊を必要としているが、軍隊を欲してはいない。」―この命題は民主政治が容易に解くことのできないメビウスの輪である。そして、我々は世界中から軍備を撤廃し、世界平和を実現することができるまでは、永遠にこの難問を解く鍵を探しもとめてゆかねばらぬ運命なのである。

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コメント / トラックバック4件 to “文民統制への懐疑(ルサンチマン)”

  1. どうもーん。
    本件は含蓄が薄いので何とも言い難いんすが、突然露呈した氷山の一角のような気がしました。

    自分も含めて平時は興味が薄く、事件沙汰で「あ・なんかやったな」程度の反応。。。。と書いた時点で
    【過酷な職務にもかかわらず、自らの存在を批判】とリンクしました。

    んー。。。少しは目を向けないといかんなぁ。。。汗

  2. NANA said

    秋月さん。こんにちは。鋭いエントリーを読ませてもらいました。まさしくあなたの言うとおりですよ。共感します。単に自衛官の偏った思想を批判しても始まりません。それこそ思考停止ですよね。多くの人にこうした考えが読まれることを願います。

  3. Miho said

    お久しぶりです、秋月さん。エントリー読みました。納得、というかそうだったんだという意見に初めて出会いました。意外とこうした冷静な見方をしている人って少ないんじゃないかなぁ。改めて感心しました。これからも応援してるよ♪♪♪

  4. akizukiseijin said

    dbadminさん。コメントありがとうございます。最近は随分寒くなってきましたが、調子はどうでしょうか?!ハッキリ言って今の民主主義や議会政治はピンチだなと感じています。こうたらとテロや殺傷沙汰が多くなっては、言論の力は何の意味もなしていないという危機の現れでしょう。本格的にイギリスへ移住しようかと思案しています。でも、大好きなラーメンが食べられなくなるのは辛いかなぁ。

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