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Shota Maehara's Blog

人は戦場で何のために命を賭すべきか

Posted by Shota Maehara : 10月 28, 2008

もし明日あなたは国のために戦地に赴かねばならないと告げられたら、私ならばどう答えるだろう。きっと何度も逡巡した挙句、次の結論に達するのではないか。何故大義のない戦争で死ななければならないのか。私はその無意味な死を考えると恐ろしい。臆病者と嘲笑い軽蔑もされるだろう。しかし、本当に国家のために戦争で死ぬことだけが正しくまた勇敢なことなのだろうか。私は何かに命を賭けることが惜しいのではない。自分の信じるもののためになら死ぬことも厭わない。では、自分にとって命を賭けるに値するもの、それは一体何であろうか。

イギリスに『四枚の羽根』(A・E・W・メイソン作)という古典的名作がある。この作品は、二〇〇二年にイギリスとアメリカの合作『サハラに舞う羽根』(原題:The Four Feathers)として、六度目の映画化がなされた。監督はシェカール・カプールである。実はこの作品の主題に関して、初めて見たときあまり判然としなかったが、今になってみるととても切実で重要なメッセージを含んでいることに気づかされる。

一八八四年の大英帝国が舞台である。将軍の息子ハリーは、美しい婚約者エスネと親友のジャックをはじめ三人の友人に囲まれていた。陸軍士官である彼らの下にスーダンへの召集令状が下る。まだ見ぬ戦地を思って、武者震いする仲間たち。ただ一人ハリーは、浮かない顔をする。「自分にとって大切なものを犠牲にしてまで、英国の領土を拡大するためだけに、不毛の砂漠を奪いに行く価値はあるのか?」、こう彼は思わずにはいられない。そして、ハリーは一人除隊を決意する。

三人の仲間はハリーを臆病者と罵りその象徴である白い羽根を渡して戦地に向かう。そして、恋人のエスネにも白い羽根を渡されてしまう。ただジャックだけは、ハリーを信じて庇うが、やはり彼の本意は掴めぬまま戦場に向かう。やがて、スーダンの戦況が伝わってくる。次々と告げられる戦死者の名。灼熱の砂漠で、部隊は苦戦を強いられる。そんな中で、かつて「君になら僕の命を託せる」と言ったジャックの言葉が、彼の脳裏を離れない。ハリーは居ても立ってもいられなくなり、現地のアラブ人になりすまし、仲間を助けに向かうのだった。

前線でジャックの連隊は、サハラ砂漠を進軍していた。だが移動中の連隊は無数の反乱軍に包囲されてしまう。反乱軍に紛れて連隊に舞い戻ったハリーの目に飛び込んできたものは、狡猾な反乱軍に翻弄され、大混乱の中で敵や味方の銃弾に倒れる仲間、そして、目を負傷して苦しむジャックの姿だった。ハリーはジャックを助け出した時、落とした手紙からジャックのエスネへの愛を知ることとなる。ハリーは動揺しながらも、ふたたび捕虜として連れ去られた仲間の救出に向かう。

やがて、仲間を収容所から助け出したハリーは、故郷の英国に戻りその勇気を称賛される。一方で、失明し故郷に戻っていたジャックとエスネはすでに婚約していた。ふたたび現れたハリーを前に、かつての恋人エスネは後悔の念に涙を流す。ただ時はもう戻らない、運命だったと諦めるしかないと告げる。そんな時かつての友と再会したジャックは、ハリーに触れたとき自分を助けてくれた男の「正体」を知るのだった。かつて白い羽根を渡された親友は、やはり真の友であり、自分の尊敬できる男だと確信する。そしてエスネとの婚約を破棄するのだった。

確かに国のために死ねるか否かの前には選択の余地は残されていないように見える。人間は個人より大切な共同体のために命を捧げるべきだという主張は道徳的に正しいかのように見える。国のために死ぬことだけが勇気のある行為であり、それ以外は臆病者、非国民であると。しかし、この映画が示唆しているのは、国のためではなく、友のために命を賭ける行為こそ本当に誇りある、高貴な生き様なのではないかというメッセージである。

私はこの文学や映画が英国で長らく愛されてきたという事実に感銘を受けざるを得ない。それは自由を重んじるイギリス人が国民として持つべき「道徳」だけでなく、人間として持つべき「倫理」の存在をも直覚し、心にとどめておこうとしているからである。一人の自由主義者として戦争に立ち向かわねばならなくなった時、私もまたこの映画を思い出すことだろう。

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コメント / トラックバック2件 to “人は戦場で何のために命を賭すべきか”

  1. 摩子 said

    秋月さん。こんにちは。友情論を読ませてもらいました。いつもながら素敵な文章をお書きになりますね。私は「レディ・ファーストのすすめ」からのファンですが、秋月さんは今はあまり使われなくなった古いものや言葉に命を吹き込むのが本当に上手ですね。感心してしまいます。この映画も以前に観たことがありましたが、また観直してみたい気になりました。ありがとうございます。

  2. akizukiseijin said

    摩子さん。いつもコメントありがとございます。少しずづ書いていきますのでこれからも気軽に立ち寄って下さいね。よろしくお願いします。

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