I am the vine; you are the branches

Shota Maehara's Blog

グレン・グールドを聴く:音楽の限界/限界の音楽

Posted by Shota Maehara : 8月 6, 2007

カナダの孤高の天才ピアニスト、グレン・グールド。天才という言葉を聴くたびに、私はいつも決まってグールドとイギリスのユダヤ系哲学者・ウィトゲンシュタインを想い出す。天才とは、この世ならぬ存在だ。目はうつろ、注意散漫で、どこか上の空。要するに、この社会のコード(規則)からたえず逸脱している。

グールドは、1932年にカナダのトロントで生まれ、幼少の頃からのその才能を発揮する。独自のバッハ解釈で地位を築くが、その従来のテンポを全く無視し、対位法やポリフォニーを重視した特異な演奏法によって知られる。そして何より、ある時期から聴衆の前に全く姿を見せず、スタジオ音録のみに向ったその孤高のスタイルも彼のミステリアスな雰囲気の大きな要因となっている。

現代西欧の知識人や表現者で、彼の音楽に影響を受けなかったものはいない。フランス映画監督のジャン・リュック・ゴダールやアメリカのイスラム系知識人のエドワード・サイードそして、トマス・ハリス原作『羊たちの沈黙』の「人食いハンニバル」ことレクター博士にいたるまでグールドの崇拝者である。彼らモダニズムの破壊者は、一様に西洋の伝統的な古典文化への深い造詣によって自己を形成してきた。その意味では根っからのモダニストであった。しかし、今の世代にとってグールドに傾倒することは一体何を意味するのだろうか。

私は、このときほど自分が紛れもなく中流階級の出であることとアンダーカルチャーの影響に染まっていることを意識させられる瞬間はない。私の大学時代のヒーローやヒロインは、60年代のアメリカを代表するバンドのヴェルヴェット・アンダーグランドであり、ビートニク詩人のパティ・スミスであった。つまり、私はもっと泥臭い種族の一員であり、純粋なアートやカルチャーなどがもはや意味を成さなくなった時代の申し子なのである。

それでも私は今日もモダニストであり続けたいと願ってグールドを聴く。実際の現実と違う芸術作品のもう一つの現実の「自律性」の方を信じ、誰もが商品(手段と目的の連鎖)として生きざるを得ない世の中で唯一私だけの「自由」を確保できる空間を求めて。

広告

コメント / トラックバック4件 to “グレン・グールドを聴く:音楽の限界/限界の音楽”

  1. (スポンタ中村氏のコメントを以下に引用します)ウェブソフィアさんのブログのコメント欄への投稿:(コメントできなかったので、こちらで失礼します)それぞれのグールドの愛で方があるのですね。私がグールドに興味を持ったのは、表現と形式という意味においてです。表現すべきものによって、形式の有様が決定する。グレングールドの場合は、特異な形式を有していたが、彼は形式の奴隷になっていない。表現したいものによって、特異な形式が選択された天才の所作である。*では、芸術家が表現したかったものは何か…。ロマン派な音楽は人間の喜怒哀楽を表現する。だから、対話型のメディア形式が妥当だが、ディバインなもの、ホーリーなものを表現するときに、観客との対話は、ノイズとなる。勿論、観客との対話の中で、それぞれの存在としてのディバインなもの、ホーリーなものも生まれてくる。だが、そのような不確定さ・不確実さをグールドは嫌ったのではないだろうか。だが、皮肉にも、レコーディングという個の作業の中でホーリーなものと接する場合においても、不確定さ・不確実さを芸術家は体験しなければならぬ。それもまた真実である。*スタイル。そこにこそ、芸術家の真髄があり、それを私も求めてつづけている…。

  2. スポンタ中村さん。コメントありがとうございます。毎回考えさせられるこのの多い濃密な対話に感謝しております。そちらのブログにもコメント差し上げましたのでよろしくお願いいたします。

  3. dbadmin said

    視力検査つかれちゃいましたか。。ふふふ。ちなみにここで落ち着いたんすか?

  4. ここで落ち着きました。おかげさまで(ふふふ)。dbadminさん、これからもどうぞよろしく。

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中